FBI。連邦捜査局。地元の警察と揉めたり、UFOを追いかけたりと(あれはドラマ)何かと大変なお役所だ。 それはともかく、FBIが使っている拳銃をまとめたサイトというのはなかなか無い。 種類が多い上に、個人購入のものもあるようなので整理がつかないのだ。 しかし、いくつか明白にFBIが採用したと分かっている拳銃もある。 ここでは、そんなFBIの拳銃について、時代順にまとめてみた。
1.
リボルバーの時代
FBI創設時には、エージェントは武器を支給されていなかったという。このため、彼らは個人購入していた。 FBIのエージェントが正式に武器を持てるようになったのは、FBIが再編成された1935年から。 この時期に採用されたのはコルトのポリス・ポジティブ。1937年にはコルト・オフィシャル・ポリスがこれに変わった。 同時にS&Wの357マグナムリボルバーも危険な犯罪に関わるエージェントに用いられている。 S&Wのリボルバーでよく用いられたのはM13やM10で、アンダーカバーの捜査員はコンパクトなリボルバーを特に用いていたようだ。有名なS&WのFBIスペシャル(3インチブルバレルのM10)もこの時期のものだ。この時代、S&W
M10 2インチバレル、S&W
M38ボディガード・エアウェイト、S&W
M60チーフスペシャル、S&W
M19コンバットマグナム
2.5インチバレルなど、多くのリボルバーが使われている。 これらのリボルバーの多くは1970年代に採用されている。総じて、同時期の警察官と同じような拳銃を使っていたことが分かるだろう。なお、現在でもこうしたリボルバーがどの程度使われているのか――というのは把握できていない。ニューヨーク市警では2003年時点でも2000挺以上のリボルバーが使われていたが、FBIと警察とではまた事情が違うだろう。
2.
オートマチックの時代へ
FBIで初めてオートの拳銃が採用されたのは1938年。38スーパーを使うコルト・ガバメント(コルト・スーパー・オート)だった。 当時、既にギャング達が持っていた防弾チョッキへの対抗策のために僅かに採用されている。 また、この他HRT(Hostage
Rescue
Team=人質救出部隊)は1983年から独自にブローニング・ハイパワーを採用していた。80年代にはハイ・サイト、エクステンデッドサムセイフティ(アンビではない)、パックマイヤー・ラバーグリップを装備したカスタムが使われ、もっと後になってNovakサイトをつけ、セイフティはアンビ、グリップはCraig
Spegelタイプのカスタムが使われたという。このハイパワーはWayne
Novakによるカスタムだという未確認情報があるが、定かではない(追記参照)。 FBIは1990年には(1989年説あり)、10mmオートの採用を決定し、1991年からエージェントの拳銃を全て10mmオート(10mm×25)のS&W
M1076に刷新する予定であった。 この10mmという弾は、装薬をフルロードにしたら銃にも射手にも負担が大きい。そこで、FBIは採用時から減装弾を用いていた。これがいわゆるFBI
Loadである。 しかし、減装にしてもこの10mm弾を使用した拳銃はトラブルがあり、最終的には予定通り刷新されることはなかった。そもそもあんな弾でうまくいくと考えていたのだろうか 1993年にはFBIは9mm×19のオートを採用することとし、SIG
P226、
P228、そして主に女性用にP225を採用している。中でもP226はエージェントの標準的な拳銃として、1990年代だけで約15000挺も継続購入された。 1998年1月から、新しいエージェントには40S&W弾を用いたトレーニングを行うようになった。採用されている拳銃がグロック22、グロック23、グロック27である。以前からいるエージェントはSIGのままで、新しいエージェントも希望があれば9mmに切り替えられるということになっている。他にも40S&Wの拳銃としてH&K
USPコンパクトやSIG
P229などが用いられているという。 40S&Wは10mmのケースを短縮して作った弾で、開発にもFBIが関わっている。当面、FBIはこの40S&Wと従来の9mm×19の並存でしばらく続けていくようだ。
3.
HRTの拳銃
多少時間を遡ることになるが、HRT(あるいはHRTを含めたFBIのSWAT)の銃は上述の経緯とは異なっている。 HRTはとりわけ危険度の高い任務が多く、また犯人を射殺しなければならない状況も多い。 このため、1994年に従来採用していたブローニング・ハイパワーではなく、45ACPを用いた拳銃を新たに採用することとなった。 この1994年のトライアルには
Wilson社、Les
Baer社、Cylinder
& Slide社などが参加している。 要求項目Request
for Proposal (RFP 6564) は以下の通り。
・セミオート、シングル・アクションの拳銃 ・スチール製のスライド、フレーム ・コマンダースタイルの露出型ハンマー ・フレームマウント式のアンビ・セイフティ ・ファイアリング・ピン・セイフティ ・連射を防ぐディスコネクター ・ハンマーにハーフコック・ノッチがある ・ハイ・ライド・ビーバーテイル・グリップセイフティ ・複列弾倉(12-13発)
・全長9インチ(約22.86cm) ・重量48オンス以下(約1360g) ・銃身長4.75〜5.25インチ ・フル・ランプド、競技用の精度の銃身 ・フィーディングランプ、チャンバーの研磨 ・競技用の精度のバレル・ブッシング ・開口部の広いエジェクション・ポート ・コンシールド・キャリー用に余分なバリ等を落とす ・W.D.Birdsongの
Black-T仕上げとする(テフロンなどと同じ一種のフッ素コーティング) ・Wayne
Novakのローマウント・サイト
もっと詳細な仕様がある筈だが、とりあえず資料にあったのは以上のようなものだ。強引に意訳しているところ、片仮名に直しただけのところもあるが大意は分かると思う。 これらの条件を満たした上で、最終的な選考に残ったのがLes
Baerのモデルであった。Les
BaerのモデルはカナダのPara-Ordinance社のフレームを用いたものである。 Les
Baerも大変だったようで、ガンスミスチームのMatt
Gishが自分の店を開くため脱けてしまったり、表面処理を含むいくつかの要求項目を切り捨てなければならなくなったりと多くの問題を抱えていたらしい。 マガジンのトラブルもあり、最終的には1995年に注文された250挺のうちの75挺だけが納入された。銃の不足のため、FBIはガンスミスのSteve
Nastoffを雇うことまでしている。彼が具体的にどう問題に対処したのかは不明だが…。 なお、この際作られたモデルは細部に変更が加えられ(いや細部どころではないが。表面仕上げもフレームもLes
Baerオリジナルのものに変わっている)、Les
Baer SRP (Swift Response Pistol)として製造販売されている。 結局、Les
BaerのカスタムではHRTの全ての拳銃をまかなう事はできない。そこでSIG
P226やM1911系カスタム(ハイキャパ含む)などを隊員は使用していたらしい。
こうした状況に対処するため、1996年10月にHRTを含むSWATチーム用の拳銃採用トライアルを実施すると告知した。 参加したのはColt、Les
Baer、Wilson、Springfeild
Armory、Kimberなど。仕様は前回と近いものだが、単列弾倉のモデルである。 前回、マガジン関係のトラブルが問題であった事を考慮してか、Bill
Wilsonの#47DEマガジン(8発、0.625インチの高さのベースパッド付)、Wolffのマガジンスプリングを使う事が仕様に加えられている。 なお、このトライアルのためにFBIは再びガンスミスSteve
Nastoffを雇っており、仕様作成にも彼が関わっている。 この仕様に沿って作られた各社の製品はさらにトライアルにかけられた。 トライアルの内容は
・2万発の耐久テスト(300発毎にチェック&クリーニング) ・10発発射し、25ヤードの距離のターゲットに1.25インチ以上のグルーピングを作らず、2万発の耐久テスト後もそのグルーピングが15%以上広がらないか精度テスト ・セイフティ・オン/オフ・ポジションで4フィート上からコンクリートに銃口側から落とすドロップ・テスト ・高さ3フィート、距離15フィートの位置からロード済みの銃をコンクリートの障壁に投げつけるスロー・テスト ・海水に銃を5分間浸し、取り出して2時間放置、その後真水で洗浄、銃を振って水分を切り、その24時間後に作動チェック
こうしたテストの結果、最終的に選ばれたのがSpringfeild
Armoryのモデルである。 最終的にこのテストに通った「ビューロー・モデル」を5万挺納入する契約が交わされた。
しかしこのトライアル、どうも評判が良くなかった。 テストで用いられたレミントン・ゴールデンセーバー(230gr.,
JHP)の精度が悪く、精度テストで不利になる弾だとBill
Wilsonは語っている。(そう言えば、Wilsonはいまだかつてメジャーな公的機関で採用されたことがない不運なメーカーだ) こうした不評の真相は謎だ。Springifieldの銃が通ったのは価格が安かったせいだとも言われているが、それすら主要因なのかどうか定かではない(公的機関が採用する拳銃としてはどの会社の銃も高いが、比較的Springfieldのモデルは安い)。民間モデルのProfessionalの評価は決して低くないので、なおさら判断が難しい。
参考資料: 1)
月刊GUN
1999年2月号
"FBIスペシャル:M1911A1ベース<本物
vs
モデルガン>" 2)
The FBI 1911 Contract
<http://www.sightm1911.com/lib/history/fbi_1911.htm> 3)
M-1911 Models : Novak <http://www.m1911.org/mod_novk.htm>
追記(2003-11-29):
HRTのハイキャパシティ45オートトライアルについて、新たな情報を得たので記述しておく。
・Novakのローマウントサイトは「Mark
IIローマウントサイト(トリジコン・インサート)」と厳密に指定があった。 ・精度テストは、25ヤードの距離のターゲットに対して2インチに集弾すること。使用するのはフェデラルの250gr.ハイドラ・ショック。
この情報から、ハイキャパ45オートの時点では使用弾が違うこと、後のシングルスタック45オートのテストでは精度テストが厳しくなっていることが分かる。このトライアルに出されたと言うNovakカスタムの写真がしばしばWebで紹介されているが、それがGuns
& Ammo誌のライターが注文した類似のカスタムであることも判明した。
また、HRTが使用したブローニング・ハイパワーについて、「Wayne
Novakによるカスタムだという未確認情報があるが、定かではない」と以前書いたが、後の雑誌記事によればこれは事実であるようだ。1986年製作のものというNovakカスタムの写真ではパックマイヤー製らしいマガジンベースが付けられ、セイフティはアンビではなかった。しかしその銃はNovak自身が使用していたものと解説されており、実際のFBI
HRT用のものと若干違う可能性もある。同年、NovakはFBIのオーダーに応じてCz75(Pre-B)カスタムも製作している。エッジを落とし、ショットをかけてブルーイングしたもので前後のサイトはNovak製に替えられている。なぜこのモデルが採用にならなかったかは記述がないが(多分東側の銃だからであろう)、同記事からNovakカスタムのハイパワーが正式に採用されたのは1987年であると明らかになった。
参考資料: 4)
Steel, Kevin E. "New! FBI's new auto". Guns & Ammo.
Vol. 35 No.1 p. 40-45 (1995) 5) コンバットマガジン
2003年10月号
"銘銃シリーズ:
いきなりの番外編:
NOVAK CUSTOM"
追記(2006-9-13):
現在、FBIのSWAT/HRTチームに採用されている拳銃は上で紹介されたモデルではなく、レール付きのProfessional(Bureau
model)となっている。2003年頃からこのモデルの情報が流れていたので、2003年前後には採用が検討/決定されていたのではないかと推測される。
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